明治維新の経済的動因
明治維新は,一般的には,黒船の来航,すなわち外圧によって引き起こされたものとされる。また政権交代と近代化の担い手は,薩長を中心とする下級武士であったとされる。だが,それらは冷静に観察すれば,“急激な変革”の要因であり,遅かれ早かれ,変化を促す機運と矛盾は,日本国内に満ち満ちていたのである。それは,ここまで見てきた通り,商人の台頭であった。江戸と大坂,二つの大都市の間を大量の物資が行き交い,大量の消費が行われることで,江戸期に勃興した商人達は,着実に富を蓄積していった。商人が経済の実権を手にしたことで,幕府や諸藩といえども,武士の都合だけによる政策は打てず,随所で商人との話し合いを余儀なくされた。特に豪商と呼ばれる人々は,経済全体を左右しかねないほどの影響力を持っていた。そして当初は持ちつ持たれつだった幕府と商人の関係が,天保の頃からずれを生じ始めたのは,既に見てきた通りである。商人は,種々の規制に守られてきた面もあるが,規模の拡大とともに,規制緩和を求め,身分秩序の無い社会を求めるのは,自然な流れであったといえる。特に一部の先鋭な人々が,常に念頭に置いていたのが開国であった。
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